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山本俊輔/佐藤洋笑ひろえ『永遠なる「傷だらけの天使」』(集英社新書)
を中川右介さんが読む

[本を読む]

伝説のドラマの、
文字によるメイキング

 1973年7月13日金曜日、私は中学1年生だった。その日の教室は朝から、「今日、マカロニが死ぬ」が話題だった。言うまでもなく、『太陽にほえろ!』で萩原健一演じる刑事が亡くなる回の放映日だ。「マカロニはどんな事件で死ぬのだろう」と予想合戦をする男子たちがいる一方、「そんなの見たくない」と泣きそうな女子もいた。そして翌日の教室の話題も「マカロニの死」一色だった。多分、中学生の視聴率は100%に近かったのではないか。
 しかし、1年後に始まった『傷だらけの天使』は、教室で話題になった記憶がない。みんな見てはいたが、中学生にとっては話題にしてはいけない、ヤバいドラマだったのだ。『傷だらけの天使』を学校で公然と語るようになり、「あにきー」と真似するのが流行したのは、夕方に再放送されていた高校生になってからだった。
 と、リアルタイムで見ていた者の特権としての自分語りをしてしまったが、『傷だらけの天使』に、語りだしたらきりがないほどの「思い」を持つ人は多い。そこへこんな本が出た。書いたのは私より若い、「後追い世代」。これはかなり不利な本である。「オレのほうが詳しい」と思っている人が何十万人といるだろうし、実際、そのなかの何万人かは、かなり詳しいはずだ。うんちく合戦、解釈競争をしたら、炎上は避けられない。
 しかし、この本は、そういうことはしていない。2人の著者の個人的な「思い」を綴るのではなく、制作過程を詳細に追う。既存の本や雑誌などからの引用もあるが、当時のスタッフへ取材して得た新たな情報も多く、「文章によるメイキング」となっている。
 中学時代の私は、監督や脚本家についての知識も関心もなく、あとになって深作欣二や工藤栄一、神代くましろ辰巳、恩地日出夫といった錚々そうそうたる映画人が関わっていたことを知った。その背景がこの本ではよく分かる。さらに、いくつもの幻の続編があったことも丹念に書かれている。
 マニアには「知っていることばかり」かもしれないが、私のように普通のファンにとっては、懐かしいだけでなく、発見の連続で、一気に読んだ。

中川右介

なかがわ・ゆうすけ●作家、編集者

『永遠なる「傷だらけの天使」』

山本俊輔/佐藤洋笑 著

発売中・集英社新書

定価 1,089円(税込)

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