[本を読む]
人と自然、テクノロジーの関係
――AI時代の知性のありようとは?
新型コロナ禍で、テレワークをする人が増えた。地方に移住したり、都会との間で二拠点生活したりするライフスタイルもかなり定着してきた。こうした新しい生活を機に、田舎の自然の素晴らしさに目が向くようになり、登山やハイキングを楽しむ人も増えているとされる。編著者春山慶彦氏は、多くの利用者を集めている登山地図GPSアプリYAMAP(ヤマップ)の創業者。実際YAMAPの利用者もコロナ禍以降に非常に増えたという。
本書では、自然の中で過ごす経験が人にどのような影響を与え、知性のありようをどう変えていくのかを養老孟司、中村桂子、池澤夏樹の三氏と語り尽くしている。読了して強く感じるのは、「自然に触れよう」といったステレオタイプな言説に留まるのではなく、春山氏が「つながる」ということに大いなる価値観を置いていることだ。つながるのは自然と人だけではない。自然を介して人と人もつながる。あらゆるものがこの世界の中でつながり、さらには屋久島の山岳信仰や巡礼などにも言及し、本書は宗教的な境地にまで踏み込んでいる。
同時にこの理念は、YAMAPというアプリの哲学でもある。単なる登山地図にとどまらず、人と人がアプリを介してつながる機能がふんだんに盛り込まれているのだ。たとえば登山ルートをSNSのように共有して楽しみ、遭難に備えて登山中の居場所を留守宅の家族と共有し、アプリを使っている登山者同士がすれ違うと位置情報を交換し、共有する。あらゆる場面で「つながる」ことが希求されている。
スマホのようなテクノロジーは「人を孤独にする」「つながりを希薄にする」と言われがちだが、逆にテクノロジーによって人と人、人と自然がつながっていくことを支えていく。AIなどの新たなテクノロジーが急速に進化していく中で、そのような良き補完関係の可能性もほの見えてくる。その意味でも、未来を明るくしてくれるような感覚を持った書籍である。
佐々木俊尚
ささき・としなお●作家・ジャーナリスト