[本を読む]
想像力を奪う「愛国教育」の先に
「私たちはイスラエル軍のおかげで安心して眠れるんだ」、だから「恩返しをしよう」。自由な学校の「平和教育」を通じてそう教わって空軍に入隊したイスラエル軍元兵士のダニー・ネフセタイさん。その後、来日して日本人と結婚し、家具職人をしつつ2人の子どもを育てあげた彼が人生を振り返り、戦争と平和について語る。
イスラエルで最も尊敬を集める空軍パイロットにダニーさんも憧れた。そこでは、ピンポイント爆撃後の地上の惨状は想像すらしなかったという。教師も「隣がスイス人なら平和は簡単。でもアラブ人では無理」と戦争を対立民族のせいにした。「国のために死ぬのはすばらしい」そう思わせてゆく愛国教育は今、思えば罪深いと強調する。
転機が訪れたのは2008年。ダニーさんと同期で、信頼していた人物が司令官を務めたガザ侵攻でパレスチナの子ども345人が犠牲になった事実を知る。子どもは殺さない、そう信じていたが、素晴らしい人物であっても殺すのだ。「軍隊は、味方と敵をきっぱりと分けます。(殺戮は)差別のうえに成り立つ」とその本質を突く。
ホロコーストの悲劇からイスラエルは建国時に「虐殺は二度とゆるさない」と宣言した。だからこそダニーさんは勇気を奮い、「右傾化するイスラエルの政治や入植地拡大は、ナチスのように破滅する過程を歩き始めたきざし」とSNSに投稿。10年前のことだが、「あんたみたいな人はガザに住めば」「殺されればよかった」という誹謗中傷のコメントが返ってきた。
それでも「力への信仰」が働きだせば、平和を実現しようと行動する人たちを嘲るようになると警鐘を鳴らす。日本の自衛隊の「敵基地攻撃能力」保有にも反対し、平和憲法の理想を捨て去るなと訴える。実体験に基づいて生まれた信念からだ。
イスラム原理主義組織「ハマス」は、イスラエルの民間人を殺害し、イスラエル軍のガザ侵攻を呼び寄せてしまった。憎悪の連鎖は
斉加尚代
さいか・ひさよ●映画「教育と愛国」監督