[本を読む]
男性ヒーローはどこへ向かえばいいのか
ヒーローが好きだ。『僕のヒーローアカデミア』を読み続け、マーベルの映画やコミックを追いかけ、ヒーロー小説に胸をときめかせて暮らしている。特に最近はかっこいい女性ヒーローや性的マイノリティのヒーローも増えていて、性的マイノリティの女性である私にとってはそれが本当に楽しく、次はどんなヒーローに出会えるかとわくわくしている。でもその裏で、「以前のままではいられない」と葛藤し、新たな道を模索する人々がいるようだ。マジョリティ男性ヒーローであり、彼らを愛してきたマジョリティ男性ファンである。
本書は、ヒーローの表象の移り変わりとその背後にある社会の変化を読み解く著作だ。その一方で本書を貫くもうひとつのテーマに「男性性」がある。もはやマジョリティ男性がマジョリティ男性らしく振る舞うだけのヒーロー像は許容されない。「多様性」(という言葉を私はあまり使わないけれど)を尊重しなければならない。しかしそれを突き詰めるとポスト・トゥルース的な相対性に向かってしまいそうだ。その板挟みのなかでいったい男性ヒーローはどこに向かえばいいのか? 『トップガン マーヴェリック』、『LOGAN /ローガン』、『チェンソーマン』などの作品を経由しながら、本書は現代の男性ヒーローの姿を探っていく。
これからのヒーローはどういった存在になっていくのだろう? 2016年、ドナルド・トランプが躍進を見せた象徴的な年に、マーベルコミックの世界ではアイアンマンとキャプテン・マーベルが異なる正義を掲げて対立し、そしてその衝突に疲弊した若手ヒーローたちが新たなヒーローの姿を探っていた(クロスオーバー『シビル・ウォーⅡ』)。ヒーローたち自身もまた、現代におけるヒーローとは何かを考え続けているようだ。私たちの社会は変わっていき、それとともにヒーローもまた変わっていく。本書はヒーローの変遷を歴史的な流れのなかで見通すひとつの視点を示し、これまでの、そしてこれからのヒーローの姿を思い描く手掛かりを与えてくれる。
三木那由他
みき・なゆた●哲学者