[本を読む]
見つけてあげたい、守ってあげたい
ずいぶん前に子育て関連の英書を読んでいたときにギフティッド・チャイルド(gifted child)という表現が出てきて、どんな訳語をあてればいいかと調べたことがあった。ランダムハウス英語辞典のgiftedの定義は「1優れた才能[天分]のある 2ずばぬけた知能を持つ」。「ギフト(gift)」は天賦の才という意味もある。しかし、恵まれた天才児、という解釈で本文を読み進めると、戸惑いが生じる。ギフティッド児のなかには、学校の支援が必要で困難を抱えている子どもが多くいるというのだ。
本書を読んで、ようやく全体像が見えた。ギフティッド児は、ひとことではとても説明しきれない。「並外れた才能が潜在的にでもあるかどうか」が判断基準であり、知能検査によって指標は得られるものの、当然ながら個人差があり、発達障害を併せ持つ子もいる。知的優秀さと繊細さ・激しさとのアンバランスに苦しむ子もいれば、学業優秀でない場合もある。さらにギフティッド児の90%以上は天才ではない(!)。giftedは以上のことから「ギフティッド」とカタカナにするしかないのだ。
著者は、私たちが抱きがちなギフティッド児に対する誤解や疑問について、順を追って易しい言葉で説明してくれる。脳神経科学のエビデンスやチェックリストといった専門知識や実践的な資料の提供もありつつ、全体を通じて印象的なのは、当事者である子どもの目線に立ち、気持ちに寄り添う内容になっていることだ。具体的な事例を読み進めながら、心が動かされる。ならば親は、教育現場は、行政は、どうすればいい? 子どもを主役に、脇を固める大人たちが理解を深めることが必要だ。「的確なギフティッド・イメージをもつことが、的確な支援の第一歩」。よく観察して安心できる環境を与えることは、育児の基本だ。ギフティッド児もひとりの子どもであり、爆発的な成長の途中にある。見つけてあげたい、守ってあげたい、という著者の優しいまなざしが伝わってくる本だ。
鹿田昌美
しかた・まさみ●翻訳家