[本を読む]
絶えない
絶え間なさ、に泣きたいような気持ちになった。どうしてなのか、うまく説明できない。柴崎友香の小説を読むと、いつもこういう、
二〇二〇年からのコロナ禍に生きる三人の男女の日常が、
彼らは三者三様に血肉を持った生活者で、劇的な事件が起こってエッジが立つ瞬間をドラマチックに切り取られたりしない。混迷の中でも働き、子どもと遊び、人と会い、食べ、眠る。そんな「非日常の日常」から、東日本大震災や阪神・淡路大震災、あるいは家族をめぐるそれぞれの痛みがふと浮かび上がる。本当に「忘れられないこと」には節目も時効もなく、「忘れられないこと」のほうから不意に訪れてくる。それでも、流れは止まらない。
ラストの数ページ、今までミクロだった視点がふわっと浮き上がり、気づけばわたしは巨大な模様を
始まりの前の続き、続きの後の始まりを見下ろし、あの中のどこかにわたしもいる、と思った。こんな景色を見せてくれてありがとう、と思った。
一穂ミチ
いちほ・みち●作家