[今月のエッセイ]
<梟>の翼に乗って
生き物みたいな小説を書いています。
時に「作者」であるはずの作家のコントロールより物語の推進力のほうが強力で、手綱をつけて飼いならしたいのはやまやまですが、どちらかと言えばこちらが引きずりまわされている感じ。
おそらく書き手の皆さんの中には、「わかる」と頷いてくださる方もいらっしゃると思います。物語が命を持ったかのように、自力で疾走を始めると、作者はうっかり魔法の絨毯に乗ってしまった気分でひたすらしがみつくしかないのですが、それはそれでとても心地よいのです。
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きっかけになったのは、ダニエル・T・マックスの『眠れない一族』という、珍しい遺伝病を扱うノンフィクションです。当事者の深刻な苦しみと恐怖には同情を禁じ得ないのですが、「眠らない」という状態には、誤解を恐れず言うならロマンを感じました。
わたくし、眠る間も惜しんで仕事したいほど勤勉な人間ではないですが(きっぱり)、時間を気にせずに本を読みたいとか、映画やドラマを見たいとか、「眠る時間がもったいない」と思った経験は、誰にでもあるはず。
また睡眠は、すべての生き物にとって大きな弱点にもなりえます。眠っている間は無防備だから、捕食動物にパクリと食われる恐れもあります。その弱点を克服するためか、半球睡眠といって、脳の半分ずつ交代で眠る渡り鳥やイルカのような生き物もいるほどです。
もし、「睡眠を必要としない」一族がいたなら――。
考え始めると、後は「自動書記」みたいな状態になり、どんどん物語が動きました。
面白いもので、いったんそうなると、必要な情報が向こうから近づいてくるのです。<梟>のルーツを想像させる書物だったり、さほど深い理由もなく決めた一族の里の場所が、実は興味深い歴史を持っていたり。あまり詳しく書くと興を削ぎそうなので書きませんが、代々、<梟>をサポートしてくれる役割を担っていた人々が、実は本当に忍びとも深い関わりを持っていたと、後になって教えられてびっくりしたこともありました。
いや、<梟>の一族だって、実はどこかに実在するのじゃないかしらん。今ごろ書店で本を手に取り、「なぜわかった!」なんて言ってるんじゃないかしらん。
第一巻『梟の一族』は、滋賀県の多賀にある集落から始まります。多賀にお住いの読者から、
「『梟の一族』の読者が多賀観光に来ているそうですよ」
とのご連絡を頂いた時には驚きました。
私の作品が、いわゆる聖地巡礼の対象になっているとは――(恐れ多い)。
もちろん多賀という土地が魅力的だからで、自分の手柄にするつもりはないのですが、小説を読んで、多賀を訪問してくださった皆さん。この場を借りて御礼申し上げます。多賀大社、
さて、第二巻『梟の胎動』は、前作の四年後から始まります。
里を失い、両親のいる東京に出た主人公・
彼女の周囲に、<梟>と同じく特殊な能力を持つ集団が現れます。<
<梟>のスポーツ編、開幕です!
第二巻、そして第三巻『梟の好敵手』は、古代アステカ王国で行われていた球技ウラマをベースにアレンジされた、「ハイパー・ウラマ」のお話になります。これ、違法でない限りドーピング、人体改造なんでもOKというトンデモな競技なのです! 誰が、なぜそんな競技を立ち上げたのでしょうか。
一族の面々、史奈や
シリーズものをあまり書かない私には珍しく、<梟>の物語、全二十巻ほど書けそうなネタがあります。戦国時代を舞台にした藤堂高虎編なども、あるようです。それが現実になるかどうかは、商業的に成立するかという大きなハードルがあるのですが――。
ただ、正直に言いますと私はあまり心配していません。この物語はきっと、<梟>たちが気のすむまで、疾走し続けるはずです。
よろしければ皆様、最後まで気長におつきあいくださると嬉しいです。