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佐藤さくら『波の鼓動と風の歌』(集英社文庫)
を北村浩子さんが読む
問いが導く少女の変貌

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問いが導く少女の変貌

 呪術や魔術といった道具立てを用い、少年少女の自己肯定感の獲得をめぐる模索を描いてきた佐藤さくら。本作の主人公、高校三年生の来島凪くるしまなぎもしんどさを抱えている。人とうまく付き合えず、息苦しい、生き苦しいと思いながら心をきしませて生きている。
 そんな凪は、校外活動の最中に湖に転落してしまう。気付くと鎖でつながれ、鉱山で働かされていた。しかも左腕と両足が獣のような姿形になっている。ここはどこなのか。自分はどうなってしまったのか。
 凪を救い出してくれたのは、十二歳の少年サージェ。彼はこの国、サライの仕組みを凪に話す。足元の地面は海の上に立つ「王柱おうちゆう」によって支えられていること、海はすべてを溶かしてしまうため、大地の崩落は国の沈没を意味すること、そして自分は、かつての王の生まれ変わりとも言える「聖王の喜生きつしよう」であると信じていること……。
 サージェは現在の王に会うため、西の果てにある都を目指していた。都には凪のような、人間と獣の「まじりもの」のことをよく知る「見師けんし」なる存在がいるのではないかと彼は言う。かくして「ナギ」はサージェと共に西へ向かうが――。
「王柱」という言葉は「人柱ひとばしら」を連想させる。そう、サージェはある使命に殉じようと心に決めていた。祈りにも似た彼の意思はナギに根源的な疑問を突き付ける。〈生きるのには意味がなければいけないのか? 命には価値がなければいけないのか?〉
 この問いに、どんな世界も誰かの犠牲の上に成り立っているという真実を重ね合わせて物語は進んでゆく。サライの王・ティルハの慈悲深さと気高さが、ナギやサージェに新たな視点を与える展開は感動的だ。ラスト近く、海からあるものが出現する場面は、彼らの葛藤が丁寧に描かれてきたからこそ美しく映る。
 ナギは「凪」に戻れるのか。戻るのか。主人公は大概、時間の経過と共に成長するけれど、彼女の成長は変貌と言ってもいい。その姿を是非見届けてください。

北村浩子

きたむら・ひろこ●フリーアナウンサー、ライター

『波の鼓動と風の歌』

佐藤さくら 著

発売中・集英社文庫

定価 979円(税込)

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