[本を読む]
ジャニーズ問題以前から被害はあった
2017年に性犯罪刑法の大幅な改正があり、「強姦罪」が「強制性交等罪(※)」に変更された。それまで強制わいせつ罪にしかならなかった男性の挿入被害も、懲役5年以上の重い罪になることとなった。また同じ年に海外で始まった#MeTooが日本にも伝わった。この頃から性暴力に関する報道がじわじわと増え、10年前にはほとんど聞くことのなかった「性的同意」という言葉を頻繁に耳にするようになった。(※)2023年の再改正で「不同意性交等罪」に。
このような世の中の流れからすれば、『男性の性暴力被害』の出版は時宜を得ている。そして今まさに連日報道を騒がせているのは、ジャニーズ事務所で行われてきた権力者による少年たちへの性虐待である。
「人類史上最悪の性虐待事件」とセンセーショナルな見出しがつけられ、エンタメ業界の大スキャンダルであるかのように報じられる一方で、男性の性暴力被害者に対して向けられてきた偏見を検証する姿勢は少ない。
これまで男性の性被害がニュースになるたびネット上では「www」「草」といった「笑」を表すネットスラングを飛ばす人が多くいて、被害に遭った側でさえ、それを「ネタ」にして話さなければいけない雰囲気があった。
本書が繰り返し指摘するのは、男社会の中で男性が自らの性被害を受け止めることの難しさである。
日本にもジェンダーやフェミニズムの研究はある一方で、世間の理解との乖離ばかりがこの数年は特に目につく。バックラッシュの時期とも言える。この中において本書は男性の性被害を「男性だって性被害に遭うのだ」といった「女性への対抗」に使うことをやんわりと牽制し、ジェンダー(社会的・文化的性差)への囚われから離れることが男性の性被害者の可視化や回復に必要ではないかと示唆する。
共同執筆者の二人の、勇まず、結論を急がず、しかし今後の議論において重要となるべきポイントを十分に意識した姿勢は信用できるものだと感じた。
小川たまか
おがわ・たまか●ライター