[本を読む]
介護現場のゲリラ戦士たち
論争には滅法強そうな上野千鶴子さんと、介護界では口喧嘩で負けたことのない髙口光子さんの対談本が出るという。
「おひとりさま」で、老いを正面突破しようとする学者に対して、「それは無理。老いは自立より依存、プライバシーより関係を求めるんだから」と現場から異議を唱えるという内容かなという私の予想は見事に外れた。
医療モデルに対して生活モデルの介護を教育しつづけた髙口が、事実上解雇されたという事件を、学者の上野が介護の危機として取り上げ、髙口を「事情聴取」したもの。
髙口の介護現場での奮闘ぶりには、上野も感心しきりだが、解雇が予想外だったという髙口には厳しい意見も。
「戦略の間違いを戦術で補うことはできない。戦術の間違いを戦闘で補うことはできない」。ここでいう戦略とは政治、制度。戦術は経営責任者の姿勢。そして戦闘とは現場の介護だ。
最強の戦闘指揮者の髙口が、戦略、戦術に無関心だったことが解雇という危機を招いたのではないか。対談では髙口は上野にオルグされているように見える。でもちょっと待ってほしいなあ。
かつて病院での抑制(手足を縛ること)を批判すると「人手が不足しているから」と猛反発された。
しかし、発想の転換と工夫によって抑制以外のいまできることをせずに、制度が良くなり人手が増えたとしても適切な介護ができるという保証はないではないか。「余裕をもって手足を縛る」ことになりかねない。
たとえ戦略と戦術がまともでも、戦場の兵士が闘い方を知らないのでは勝てるはずもないのだ。髙口も私もその闘い方=介護の具体的方法を提起し続けてきた。なにしろ制度が良くなるまで老人たちは待ってくれない。
戦略も戦術も無いまま、まるでゲリラのように闘ってきた介護職にとって、その方法は、自己嫌悪に陥らずに生きていくための武器でもあるのだから。
三好春樹
みよし・はるき●理学療法士・生活とリハビリ研究所代表