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吉原珠央『絶対に後悔しない会話のルール』(集英社新書)
を大島育宙やすおきさんが読む
「潤い成分多め」の実用書

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「潤い成分多め」の実用書

 説教臭さのない実用書だ。コミュニケーションの具体的なポイントをできる限り細かく示しており、並んでいるテクニックやティップスの一つ一つにてらったものはなく、どれも言われてみれば確かにそうだと思えるものだ。当たり前のことほど、説明するのは難しい。
 個々の挿話も、日常の些細な会話の一幕を切り取ったエピソードなのだが、確かに著者の切実な体験談に基づいているに違いない、という温度が感じられる。
 例えば、決めつける前に観察する、という項では著者の小学生時代のエピソードが語られる。テスト中に問題用紙に印刷の不備があり「心霊写真だ!」とクラスメイトがざわつく。著者は後ろの席の子にしつこく「どれが心霊写真なの?」と聞かれ、問題用紙を後ろの席から見えるようにしてやり過ごそうとしたが、その瞬間を先生に「カンニングです!」とみんなの前で𠮟られてしまったという。ここからこの項では「その時、先生はどうすれば良かったのか」という議論にスムーズに移行するのも面白い。
 私が読んできたハウツー本の多くでは、具体的なエピソードは効率偏重主義の名の下に要約され、具体例なのに具体性を奪われ、骸骨のようになっていた。それがこの本では、血肉を備えたまま挿話がけ造りにされているようだ。思えば、どこまでテクノロジーが進んでも、コミュニケーションとはつまるところ人間同士の血肉の交換である。コミュニケーションの教科書としてエピソードに血が通っているのは至極真っ当だ。
 また、自己啓発書でありがちな「私は過去にこんなにダメでした。しかしこうするとこんなに良くなりました」というただの高低差エピソードもないのが嬉しい。過去の自分を大げさに卑下し、現在の自分をより良く見せる具体例ほど冷めるものはない。コミュニケーションのプロである著者はさすが、私のような小うるさいエピソード警察の心理も熟知している。
「それができれば苦労しないよ」という当たり前や理想論だらけの乾いたコミュニケーション本で悩みが解決しなかったあなたに、潤い成分多めの本書をおすすめする。

大島育宙

おおしま・やすおき●芸人・YouTuber

『絶対に後悔しない会話のルール』

吉原珠央 著

発売中・集英社新書

定価 990円(税込)

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