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サウスの「反乱」とどう向き合うか
ロシア・ウクライナ戦争が勃発して既に1年5カ月が経過した。常任理事国(P5)の重責を負うべきロシアによる国連憲章違反の侵略行為に対して、米国を筆頭とする西側諸国はかつてない大規模な経済制裁をロシアに科し、また兵器供与や兵士訓練などを通じてウクライナを全面的に支援している。だが、依然として国際社会がロシアによる侵略行為を止めさせる見込みは立っておらず、本戦争は更なる長期化の様相を呈している。
その要因の一つは、米国への対抗という文脈でロシアと戦略的利害を共有する中国はもちろん、いわゆるグローバル・サウスと呼ばれるインド、東南アジア、中東、アフリカ、南米などの国々の多くが西側主導の対ロシア制裁に参加していないからだ。
本書は、国連担当記者を経て、先のイラク戦争など戦場での取材経験も豊富な著者が、今回は南アフリカのヨハネスブルクを拠点にウクライナとアフリカ大陸での現場取材を交互に敢行して、本戦争の理不尽な現実をつぶさに伝えている。それと共に、グローバル・サウスの一角を占めるアフリカ諸国の多くが米欧(グローバル・ノース)主導の対ロシア制裁に加わらず、ともすればロシア側を擁護・支援するかのような言動を取る根本の原因を探った類のない意欲作である。
グローバル・サウスが直面する深刻なエネルギー・食糧問題やロシア民間軍事会社ワグネルによる影響工作の実態も描き出している。さらに留意すべきは、数世紀にわたる西欧植民地主義の傷跡が深く刻まれたアフリカ諸国の人々の米欧中心の世界秩序に対する根深い不信感が、特に若者の間で拡大している現実だ。
ロシア・ウクライナ戦争の勃発を契機に急浮上してきたグローバル・サウスの「反乱」ともいうべき出来事が、単なる一過性の現象ではなく我が国を含むグローバル・ノースが中長期にわたって向き合っていかざるを得ない構造的な問題であることを浮き彫りにした本書の価値は大きい。
畔蒜泰助
あびる・たいすけ●笹川平和財団主任研究員