[本を読む]
ドラマ・映画への深掘りで読み解く
韓国の変化
新型コロナが感染症法上の5類になった直後、韓国へ行った。4年ぶりに地を踏んだソウルは、街並みもシステムも変わっていた。たとえば、バスはもはや現金では乗れず、電子決済しか通用しなかった。物価も上がっていたが、知人の給与も相応して上昇していた。ソウルの4年間の変貌は、評者が住む日本の地方都市(静岡)の25年分ほどの変化だろうか。
ざっと数えて30程度の韓国ドラマ・映画の作品を深掘りすることを通じて、そんな激変する韓国社会の諸相を明らかにしているのが、本書である。教育、少年犯罪、超競争社会、地域格差、住宅事情、外国籍住民、軍隊、戦争、政治、外交、歴史認識、宗教、言葉、料理、さらには猫の位置付けまで、あらゆる分野の実情と変化が読み解ける。韓国ビギナーはもちろん、韓国通にも面白い発見があるはずだ。「招き猫」が日本旅行の定番の土産になっていたことを、評者は本書で知った(「不吉な獣だ」などと、猫は韓国社会で偏見の対象だった)。
著者の伊東順子氏が書いた韓国論を、評者は必ず読むことにしている(もうひとつはジャーナリスト黒田勝弘氏の論)。学生にも読んでもらう。文献と統計だけでなく、現場に足を運び、かつ、韓国への
〈ネタバレになるので詳しくは踏み込まない〉といった表現が、本書には頻出する。これに噓はなく、ネタバレを踏んでいない。それでも、各章で鋭いドラマ評・映画評に成功している。同時に〈みんながマスクをして家にこもっていた時期に、よくもこんなに美しいドラマが作れたものだ〉と作品への敬意が感じられる表現もあって、読んでいて心地よい。
小針 進
こはり・すすむ●静岡県立大学教授(韓国社会論)