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幕末の心霊探偵の新たな一歩
不可思議な謎を不可思議なまま描けばホラー、論理的に解決すればミステリ――といえば少々乱暴だが、実際にこの両者は親和性が高い。そしてそれは、怪異が日常と当たり前に接していた時代に特に高まる。本作はそんな時代ホラーミステリの文庫化第七弾だ。
時は幕末、腕利きの
これまで江戸市中で事件を解決してきた浮雲は、前作のラストで腐れ縁の薬の行商人・
多摩川では黒焦げになった水死体が次々と発見され、
しかし憑きもの落としといっても、浮雲の手法は、丹念な調査と推理で死者の無念を晴らすことによって、死者を解き放つというものだ。はたして火車が抱える無念とは――死者と生者が絡み合う謎解きからは最後まで目が離せない。同時に、これまで伏せられてきた土方の内面も見逃せない。
舞台も登場人物も一新した新シーズンは始まりが肝心だが、本作はこれまでの展開を踏まえつつも新たな要素を加え、見事な第一歩を踏み出した。ここからの読者にもお薦めできる、幕末ホラーミステリの快作である。
三田主水
みた・もんど●文芸評論家