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鈴木敏夫・責任編集『スタジオジブリ物語』(集英社新書)
を三宅香帆さんが読む
子どもたちの“希望”を紡ぐ、大人たちの物語。想像力の源泉を覗く!

[本を読む]

子どもたちの“希望”を紡ぐ、
大人たちの物語

 いわばスタジオジブリの「社史」である。スタジオジブリ代表取締役でありプロデューサーの鈴木敏夫氏が自ら監修し、1984年公開の『風の谷のナウシカ』から2023年7月公開の最新作『君たちはどう生きるか』に至るまで、全27作品についての舞台裏を綴った本となっている。
 スタジオジブリといえば、監督である宮﨑駿はやお氏の名前を抜きにして語ることはできない。だが一方で、これまで監督の語りばかりが先行してしまうところがあったのかもしれない。本書の興味深いところは、監督の製作意図を載せつつも、それだけをまとめるに留まらず、「どのようにこの映画を宣伝したのか」「なぜこの監督がこの作品に携わることになったのか」といった宣伝・人事の観点からスタジオジブリ作品史を描き出しているところである。とくに映画宣伝の手法――『天空の城ラピュタ』はなぜ日本初の本格的な企業タイアップをすることになったのか、『千と千尋の神隠し』はどのような企業に出資されていたのか、『となりのトトロ』以降タイアップ方針を転換した意図はどこにあったのか――について語る箇所は、昭和末期~平成の映画宣伝史の裏側を読むかのような面白さがある。スタジオジブリの歴史は、企業タイアップや広告プロデュースの試行錯誤の歴史でもあることが、本書を読むとよく分かる。
 考えてみれば、スタジオジブリの歴史は、バブル経済期から現在に至るまでの日本のエンターテインメントの歴史でもあるのだ。宮﨑駿氏は「この世界は生きるに値するとアニメで言い続けなくてはならない」と述べたそうだが、本書に綴られているような熱量をもって、子どもたちに提供する物語を作る大人がいたことこそが、子どもたちにとって「生きるに値する理由」のひとつだっただろう。スタジオジブリが表現する少年少女たちの飛び回る姿は、日本人の夢でも故郷でもあり続けた。その想像力の源泉を知ることのできる一冊である。

三宅香帆

みやけ・かほ●書評家

『スタジオジブリ物語』

鈴木敏夫 責任編集

発売中・集英社新書

定価 1,760円(税込)

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