[本を読む]
三年で変えられたら御の字だ!
ちょっと怪しげなタイトルである。本来ならば、そんな本の書評はお断りするところだ。しかし、著者名を見れば中尾光善先生ではないか。信頼できる旧知の先生である。かといって、ご乱心ということもありえない訳ではない。でも、さすが、読んでみて安心した。
「体質」という言葉、なんとなくわかっているような気がするが、時代とともに移り変わってきたこともあって、その正確な意味合いは相当に難しい。しかし、生命科学の進展は、「体質」がどのように作られるのかを明らかにしてきた。といっても相当に複雑なのだが、そのあたりがわかりやすく丁寧に解説されていく。
「氏」と「育ち」と言われるように、体質のみならず、我々の体のさまざまなことは、「氏=遺伝」と「育ち=環境」の両方によって決定されている。さらに、近年の研究から、これら二つをつなぐような位置づけにある「エピジェネティクス」と呼ばれるあまり聞き慣れない生命現象も重要だということがわかってきた。このエピジェネティクスというのはややこしい概念で、説明するのがなかなか難しいのだが、その分野の第一人者だけあって、中尾先生の解説はじつに明快だ。
「体質」の現代的な解釈を知った上で、いよいよ本題『体質は3年で変わる』に突入である。結論としては、完全に変えることはできないが、相当レベルまで変えることが可能であるといったところだ。なんだ完全じゃないのかと思われるかもしれないが、遺伝情報の基盤となるゲノムは変えられないのだからどうしようもない。だが、他の要因、環境やエピジェネティクスの状態は習慣を変えることによって改変が可能なのだ。
体質を三年で変えられる科学的根拠も書かれていて納得だ。良き体質は、健康、ひいては幸福の基礎になるものである。三年で変えられたら御の字ではないか。ただし、単に変えるだけでなく、いつまでも維持していくことが必要だ。そのための第一歩として、ぜひ、この本を読んでみてもらいたい。
仲野 徹
なかの・とおる●生命科学者