[本を読む]
差別と多様性のつながりを考える、
近年ない傑作!
藤原章生さんに2018年度から4年間、中央大学法学部で授業していただいた。総合講座「職業・差別・人権」というオムニバス形式の科目で、職業人になるのに備えて学生たちに人権感覚をみがいてもらおうという趣旨である。四人~五人の講師がもちまわりで話した。
講師は都合のつくかぎり出席してお互いの講義を聴き討論した。ときには講師の間で緊迫した議論になることもあったから、受講生はさぞおもしろかっただろうと思う。
差別と多様性は表裏の関係にある。それがもっとも先鋭にあらわれるのが多文化間交渉の場面だ。しきたりも価値観も違う人と話していると、何が正しいのかわからなくなることさえある。
そこで国際経験ゆたかな人に話してもらいたいと考えた。藤原さんはその目玉で、お話の内容は期待通りだった。
藤原さんは90年代中ごろ、現・コンゴ民主共和国のキンシャサで死にかけた。文字通り死線を踏み越えてきたのである。
授業は音楽を聞かせたり写真を見せたりして、文化の違いということの奥深さをじっくり語るといったふうだった。多様性は時に激しい差別と暴力を生み、時に親和と協調をみちびく。その揺れ幅の大きさがよく伝わった。
藤原さんの授業をまとめたものが本になり、読んでみて驚いた。講義の内容は期待通りと書いたが、『差別の教室』は期待をはるかに超えていた。授業で語られた内容が、ちゃんと整理されているのはもちろん多様性が
ぜひ受講した学生にも読んでもらいたい。人類社会がかかえる差別と偏見、差別と多様性のつながりを考えるうえで、近年にない傑作だ。
広岡守穂
ひろおか・もりほ●政治学者、評論家、中央大学名誉教授