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熊野英生『インフレ課税と闘う!』
を筒井潔さんが読む
インフレ対策は日銀まかせではダメ。個人の主体性こそが、解決の鍵

[本を読む]

インフレ対策は日銀まかせではダメ。
個人の主体性こそが、解決の鍵

 インフレは、例えば、消費税が課税されたが如く、国民から資産を奪い、政府の借金を軽くする。このように、インフレによって実質的に民間から政府に「所得移転」させることが、いわば「インフレ課税」である。歴史的には、2・26事件による高橋是清氏の暗殺以降、国債が野放図に発行されるようになり、政府債務のGDP比が200%を超えるようになるのだが、増税に代わる戦後のインフレーションによる政府債務の返済は、過去のインフレ課税の悪い例である。
 本書では最初にインフレ課税の分析が平易な言葉で示されるが、著者が提案するインフレ課税との闘い方の方針は、第3章で示される。著者は、「インフレ課税から逃れるには、借金をしてでもよいから積極的に投資をして、新しい価値を創出することが重要だという教訓を示している」、「インフレは新しく富を築く人には有利だと説いた」と経済学者ケインズの理論を引き合いに出しつつ、諭を展開している。要するに、投資と起業の勧めである。次世代インターネットWeb3.0への期待と共に、家計(個人)の具体的な策として、外貨投資や副業が紹介される。全体を通じて、ポール・クルーグマンのマクロ経済学の教科書が「日常の生活」という章で始まるように、経済とは人の生活の営みのこと、そしてWeb3.0が人の生活を変革するポテンシャルをもつことを再認識させてくれる。
 10年前の2013年の春に黒田東彦はるひこ氏が日銀の総裁に就任して以来、日本人の多くは日銀の金融政策に評論家的スタンスで対峙してきたのではないか。デフレの原因を日銀の金融政策の所為せいにしてきたのではないか?  著者がこの本を通じて言いたかったのは、「インフレ課税と闘うのは日銀だけじゃない、個人が主体性をもって動かないとダメだ」ということではないかと評者は思う。個人が経済の大きな流れに対応するために、投資でも副業でも良いが、何かをしようとしたときWeb3.0を含むデジタル技術は有効である。身近なところにも意外と出来ることはあることが第4章、第5章を読むと分かる。
 インフレ課税と闘うのは個人、それぞれの読者である。インフレ課税に負けたくなければ本書を読むべし、である。

筒井 潔

つつい・きよし●経営コンサルタント、慶應義塾大学KGRI研究員

『インフレ課税と闘う!』

熊野英生 著

5月26日発売・単行本

定価 1,980円(税込)

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