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藤井非三四『太平洋戦争史に学ぶ 日本人の戦い方』(集英社新書)
を白井聡さんが読む
学ばぬ者の運命

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学ばぬ者の運命

 本書の「はじめに」には、次のようなくだりがある。「古くから、『敗者は屈辱に耐えつつ学習する』と語られてきたが、そうではない数少ない例外が日本人ではないかとも思う」。この悲劇的な仮説は否定したい。しかし、否定できないのではないか、という思いが募ってならない。
 本稿を書いているのは2023年3月だが、恒例行事として「3・11を忘れない」のキャンペーンが盛んに行われている。その空々しさには反吐へどが出る。原子力規制委員会を骨抜きにし、老朽原発のほとんど期限なしの運転延長を認め、さらには新規増設までをも展望しているこの国の政府、政治家、大企業の意思が露わになるなかで、日本人が全力で行ってきたのは「何が何でも3・11を忘れる」ことであった。あたかも失敗・敗北から絶対に学ばないと固く決心したかのように。
 それのみでない。いつの間にか「台湾有事」はあたかも不可避であるかのように語られるようになった。いま日本政府は、自衛隊基地に対する核攻撃への備え(核シェルターなど)を開始しつつある。つまり、台湾有事=日本有事=日本に対する核攻撃の可能性が、はっきりと視野に入っているのだ。そもそも、輸出入とも最大の相手国である中国との戦争など、起きた瞬間に日本国民の経済生活は崩壊する。それはもちろん、最大の石油輸入元であったアメリカとの戦争に踏み切ったあの戦争の反復となる。
 著者の藤井非三四氏は、該博な戦史の知識を動員することにより、あの戦争において、大日本帝国がいかにして失敗のスパイラルに陥って行ったかを克明に描き出している。私たちの社会が、これだけの失敗を国家的に総括することがなかったことの重さをあらためて痛感させられる。そしてあの戦争をやってしまった日本社会の実質は、何も変わっていない。そのことを私たちはいま日々実感させられている。人類の歴史において三度目に核兵器が使われることがあるとすれば、それは日本に対して使われるのだとしても、私は驚かない。

白井 聡

しらい・さとし●政治学者、思想史家。京都精華大学准教授

『太平洋戦争史に学ぶ 日本人の戦い方』

藤井非三四 著

発売中・集英社新書

定価 1,056円(税込)

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