[本を読む]
オウム事件や統一教会問題を経験した
日本でもっとも必要な知識がここに
この著作に眼を通してまずハッとしたのは、オウム真理教事件を契機に、アメリカやフランスは対処ができて、この震源地の日本でいままでまったく放置されてきた課題を提示してくれたことだ。それは欧米諸国で行われてきた若い世代への「カルト」(セクト)教育である。「カルトがカルトでなくなることはあるのか」「仏教でもカルトになるのか」など、具体的な問題を事実に基づいて説明しているから、とてもわかりやすい。
本書「序論」に置かれた「カルト原論」は、すべての世代に知られるべき基礎知識だ。中学生世代にも理解できる文体で書かれているので、各家庭に一冊、全国すべての図書館に置いていただき、親世代から子ども世代へと薦めてほしいと心底思う。オウム事件や統一教会問題を経験した日本でもっとも必要な知識がここにある。この序論だけでも一読の価値がある。
私は橋爪大三郎さんと一回だけお会いしたことがある。オウム真理教が地下鉄サリン事件を実行した一九九五年のことだ。テレビ朝日系の「サンデープロジェクト」でご一緒し、そのとき著作にサインしていただいた。私は事件報道に巻き込まれ、ただただ日々の課題を消化しているときだった。社会学者の分析に「すごいな」と思い、スタジオに著作を持参したのだ。あれから二八年になる。再び専門家の歴史的認識の深みと蓄積を本書で知った。
二〇二二年七月八日の安倍晋三元総理銃撃事件をきっかけにおびただしい統一教会報道が行われてきた。テレビや新聞報道などは、結局のところ「文鮮明機関」(フレーザー委員会報告、一九七八年)の本質に触れないところに限界がある。橋爪さんは、教祖の人生から、難解な『原理講論』の分析、紹介も行い、「反社会的カルト宗教」と分析した。序論がわかりやすい入門編だとすれば、続く「生長の家と日本会議」、「統一教会と自由民主党」は、この日本社会を不可視の世界で動かす組織を原理的に分析した応用編である。日本会議と統一教会の接点はあるのか。著者は「結論」で、日本会議も統一教会も、やがて政治の表舞台から消えていくと予測する。その根拠を明らかにした知的刺激に満ちた一冊だ。
有田芳生
ありた・よしふ●ジャーナリスト