[本を読む]
日本は何度敗戦するのだろうか
かつて日本の家電製品はアジアの人々にとって憧れであり、ステイタスだった。15年前、中国上海の家電量販店を取材した際、店の一段高い場所に王様のようにソニーの液晶テレビが鎮座していたのを覚えている。今や世界一の家電メーカーとなったハイアールなどの中国メーカーは下段に置かれ、ソニーを見上げていた。価格は圧倒的にソニーが高いが、私には価格に見合う製品差がわからなかった。
盛者必衰の
なぜこんなにも日本の電機産業は凋落してしまったのか。著者は、本書で自身と父の電機産業勤務の経験を踏まえつつ、可能な限り客観的に原因を分析し、未来への可能性を提言している。しかし、随所に切実なまでにほとばしる後悔の思いが読む者の胸を打ち、他に類例を見ないビジネス書となっている。
著者が指摘する原因(大罪)は五つ。「誤認」「慢心」「困窮」「半端」「欠落」である。「誤認」とはデジタル化の「画期的な簡易化」を見抜けなかったこと。「慢心」とは「ちゃんとやるべきこと」をやっていなかったこと。「困窮」とは経営悪化が長引く中でネットへのイノベーションの波に乗れなかったこと。「半端」とは、雇用が日本流と米国流のどっちつかず状態となり、従業員のエンゲージメントを喪失させたこと。「欠落」とは、ミッション(究極の目的)を達成するためのビジョン(具体的な目的)がなかったこと。
著者が指摘する五つの大罪は、電機産業のみならず日本経済全体の「失敗の本質」である。私たちは何度、敗戦すればいいのだろうか。太平洋戦争、バブル崩壊、そして現在は第三の経済的敗戦である。著者の「失敗は蓋をして隠すものではなく、本来は貴重な体験として語り継がれるべきもの」との言葉が悲痛な叫びに聞こえるのは、私だけではないだろう。
江上 剛
えがみ・ごう●作家