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自由で幅広な日本美術ガイドに乾杯!
山口 桂『死ぬまでに知っておきたい日本美術』を
片山杜秀さんが読む

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自由で幅広な
日本美術ガイドに乾杯!

 小中高の12年間を暁星学園という男子校で過ごした。東京の都心にあるフランス系のミッション・スクール。制服はフランスの軍服をモデルにしていて、フランス語教育が行われ、校内をフランス人の修道士が闊歩していて、フランス人の大好きなサッカーが生徒に奨励されていた。“女人禁制のキリスト教的楽園”に7歳から18歳の年まで通った経験は、やはりかなり特殊である。そのことと別に関係ないのかもしれないが、一見おとなしそうで、実はこだわりが深く、わがままな、唯我独尊的な男の子が多かった気がする。遊び人の学校とも呼ばれていたが、むべなるかな。社会に出てから、その頃の友達に偶々たまたまちらとでも会うと、何だかホッとする。少数派という自覚に呪縛されているせいだろう。
 山口桂くんもそのひとり。同じ学年だ。付属の幼稚園から上がってきていたので、私よりも男子の園で年季を積んでいる。小学校のうちから背も高いし、既に今とあまり変わらぬ風貌だった。それから時を経た。山口くんは、世界をまたにかける美術品オークションの大会社、クリスティーズで重きをなしている。しかも日本美術が専門だ。お父上が浮世絵研究の大人物だったから、なるほどと思う。しかし、少年時代の山口くんにそんな雰囲気はなかったとも思う。母校の基調は西洋かぶれ! でも、だからこそ東洋に過激に反転する人も出る。山口くんはそういう極上の例だ。専門領域にこだわり縛られる学者や評論家でなく、今を生きながら、あらゆる美術品の時価をはじき出すオークションスペシャリストになったところが、またいい。本書を見よ! 雪舟から杉本博司まで。縄文土器から1980年代生まれの美術・工芸家まで。こんなに自由で幅広で、しかも独自目線のみなぎっている日本美術ガイドに触れたことがない。真の遊び人に乾杯!

片山杜秀

かたやま・もりひで●政治学者、音楽評論家

『死ぬまでに知っておきたい日本美術』

山口 桂 著

発売中・集英社新書

定価 1,320円(税込)

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