[本を読む]
雪もお墓も笑いに変えて
「お墓、どうしてます?」
と問われた時に、何も心配事はない、と言い切る中高年は少ないことでしょう。お墓を作らなくてはとか、反対に墓じまいしなくてはとか、樹木葬がいいとか海に撒いてとか、様々な答えが返ってくるに違いない。
本書の著者もまさに、そのような状況に置かれています。二年前に父親が他界。人が一人この世からいなくなった後の残務処理というのはかなり大変なわけで、のこされた母と同居する著者がそれらをこなしていく日々の記録が、本書なのでした。
「夫が先に逝き、妻が後にのこる」というパターンが世には多いものです。我が家においてもそうだったのですが、この「のこされた妻」問題は、案外大きい。我が家でも「のこされた妻」、つまり私の母親の「私ってかわいそう」アピールに、しばしばキレそうになったものだったっけ……。
「のこされた妻」問題はしばしば、娘にのしかかるのです。著者もまた母の通院や新型コロナワクチンの接種につきそい、父の他界後の様々な手続きを引き受け……と、つまりは家長的な立場を担うことに。父の死によって夫婦というユニットが解消された後、「家を回す役」は長女である著者に禅譲されたのです。
著者が住む地は北海道ということで、その役目は、さらに重量感アップ。雪かきをしてもしても雪は降り積み、灯油の値上げに対する心配も募る。「冬のことばかり考えている」という寒冷地の感覚を、東京に住む私はちっとも知らなかった……。
著者はしかし、そんな日々をカラリとした笑いに変えて綴ります。同じような立場にある娘(もちろん息子も、ですが)たちにとって、本書は仲間のような存在となるのではないか。
では肝心のお墓がどうなったかについては、読んでからのお楽しみ。お墓のことを考えるのは面倒、という著者の正直な感覚に、「私だけじゃないんだ」と、ホッとしました。
酒井順子
さかい・じゅんこ●エッセイスト