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背後に蠢 く巨悪の存在
月村了衛は、派手なアクションが魅力の伝奇時代小説を書き継いでいる。『コルトM1847羽衣』以来四年ぶりの新作時代小説は、活劇ではなく、
十三夜の夜。帰宅途中の喬十郎は、男女の死体の前で
十年後。家督を継ぎ荒稼ぎ(強盗)を追う喬十郎は、塩問屋・
このように物語は、剣が強く頭も切れる喬十郎対商才があり名士とも裏社会とも繫がる利兵衛の構図で進んでいく。
だが、利兵衛が庶民の生活が苦しくなるのを承知で、御用金を課し貨幣改鋳も進める幕府に不信を持ち、喬十郎が人の命を使い捨てにする政治の裏側を目の当たりにする中盤以降になると、真に戦うべき巨悪の存在が浮かび上がってくる。
政治と経済の闇が生んだ巨悪は現代社会にもあるので、困難な戦いに挑む喬十郎の活躍が痛快に思える。そして巨悪と妥協しない喬十郎の姿は、弱肉強食の拝金主義が広がる現代をどのように生きるべきかも問い掛けているのである。
末國善己
すえくに・よしみ●文芸評論家