[本を読む]
愛すべき動物と有名人と普通の人の
山本流時代小説!
「動物もの」は時代小説でも鉄板の題材ですが、登場するのは犬猫など身近で、しかも愛らしい動物たちが中心です。ところがこの山本幸久の初時代小説に登場するのは、動物といっても
これまで作者は、仕事に懸命に打ち込む普通の人々の物語をユーモアと情感たっぷりに描いてきました。しかし本作に登場するのは、大半が
そんなユーモラスな物語展開の一方で、異邦から連れてこられた動物たちには「私はどうしてここにいるのだろう」と、もの悲しげな空気が漂います。しかしその想いは、実は人間も――歴史上の有名人であっても、皆が抱えるものにほかなりません。それでも、動物も有名人も普通の人も、そんな想いを抱えながら己の生を生きなければならない。そして生きていれば結構楽しいこともある――そんなちょっと元気が出る真実を教えてくれる本作は、愛すべき動物と人間の物語なのです。
ちなみに本作は、初の時代小説といいつつ手慣れた調子で江戸時代を描き、さらに軽々と伝奇的な大ネタを投入してくる作品でもあります。これを読んでしまったら、もう今後の山本流時代小説にも期待せざるを得ません。
三田主水
みた・もんど●文芸評論家