[本を読む]
十五世紀琉球の熱き物語
矢野隆が絶好調だ。合戦を題材にした「戦百景」シリーズを矢継ぎ早に三冊まで刊行して、大いに気を吐いたかと思えば、バイオレンス時代小説『さみだれ』で、読者のド肝を抜く。そして最新刊となる本書『琉球建国記』では、十五世紀の琉球の動乱を、圧倒的な筆致で描き切ったのだ。どれを読んでも興奮必至。まさに、今が旬の歴史時代作家なのである。
琉球の東に突き出た
一方、琉球王府も揺れていた。琉球を一代でまとめた英雄・
いきなり恥ずかしいことを告白するが、私は十五世紀の琉球の歴史に詳しくない。したがって本書の内容の、どこまでが史実なのか、さっぱり分からなかった。にもかかわらずページを捲る手が止まらない。まるでヤンキー漫画のような殴り合いから始まる加那のストーリーは気持ちよく、策謀にまみれた金丸のストーリーは重苦しい。しかも、支配せずに治める加那と、支配こそが人間の真実だと確信している金丸の、対比が際立っている。そんな二人が対決するのだ。どちらが勝つのか分からないからこそ、面白くてたまらないのである。
さらに作者の特色がよく出た、迫真の戦闘シーン、激動の中で成長していく氷角に託されたもの、多数の人物が織り成すドラマなど、読みどころが満載。ただごとではない熱気を感じる、渾身の歴史小説なのだ。
細谷正充
ほそや・まさみつ●文芸評論家