[本を読む]
“未来人”による大阪紀行
本書は東京出身のスズキナオさんが2020年から21年にかけて大阪を歩いた紀行文である。
石切さん(
スズキナオさんの武器はこの「がんばらなさ」じゃないだろうか。
この持ち前の元気のなさで人の警戒心を解いて話を聞いていく。本書ではコロナ禍の中の人たちの声を聞いているが、決して「逆境に負けずにたくましく生きる人たち」というトーンではない。
「『将来どうやって食うていこう』って考えたらなにもできない」
「(商売が)コケても競艇で負けたおもたらええねん」
「『ベトナムに帰れないかわいそうなアーティスト』という視線が向けられるのも望んでない」
近くで見たら悲劇、遠くで見たら喜劇という言葉を地で行くような、自分を
NHKのドラマ「タイムスクープハンター」では未来からやってきたジャーナリストが特殊な交渉術を用いてその時代の人に話を聞いてゆく。特殊な交渉術は番組では明らかにされていないが、ナオさんの元気のなさこそ実は未来人なみの特殊な交渉術なのではないだろうか。
本書前半の商店街と埋立地を歩く章で、対象物と距離を保ちつつも細かく描写するさまはまるで未来から来た人が観察しているようだ。本書後半で特殊な交渉術を用いはじめるあたりでいよいよスズキナオ=未来から説が確信に変わった(名前がカタカナだし)。
かつてスズキナオさんがカラオケで歌っているときに、一瞬星野源に見えた瞬間があったのだが、あのときも特殊な交渉術を使っていたのかもしれない。でも少し似てると思います。
林雄司
はやし・ゆうじ●「デイリーポータルZ」編集長