[本を読む]
生きていた、その記憶を残すものたち
これは人の記憶にまつわる小説だ。
清水裕貴『花盛りの椅子』は、古家具を再生して販売する会社に勤める女性・
巻頭に収められた表題作は、鴻池が破損のため三本足になった椅子と出会うことから話が始まる。彼女を雇った社長の
本作に登場する古家具は、時間の破れ目をつなぎ合わせ、奪い取られた過去を現在へと呼び寄せる役目を担う。全篇に天災の話題が織り込まれており、「
人が生きれば必ず痕跡が残り、その積み重ねで世界は作られる。連綿と続く時の流れを家具という物に託して表した小説だ。東日本大震災で世界は一度断ち切られた。その痛みとどう向き合ったらいいのか、誰もが戸惑いながら生きてきた。本書の中に、探していた心の置き場所を見つけたような気がする。こうして語ればいいのだ、このように静かに。
杉江松恋
すぎえ・まつこい●書評家、ライター