[本を読む]
行間から、記者の
怒りや悔しさがにじみ出る
私は選挙と民主主義を愛している。それだけに、2019年参議院広島県選出議員選挙で行なわれた大規模買収事件に対して強い
本書は広島県で起きた世紀の愚行を地元紙・中国新聞の記者たちが追った記録である。買収した側の論理はもちろん、現金を受け取った側の見苦しい言い訳やふるまいが余すところなく刻まれている。恥ずべき金権選挙の実態を記録した資料として、十分な価値がある。
この事件では、国会議員の夫(河井克行)と参院選に立候補した妻(河井案里)が選挙区内の地方議員や有力者100人に現金を配っていた。総額は判明しただけで約2900万円。夫妻の有罪は21年に確定した(案里2月、克行10月)。一方で、現金を受領した県内の首長、地方議員40人は一人も起訴されなかった。辞職してけじめをつけたのは8人だけで、多くが職にとどまった。
こんな理不尽な話はない。記者たちは群馬県や千葉県の金権腐敗も追いかけた上で、こう書いている。
「表面化していないだけで、買収行為は今も全国どこにでもあるのだろう」
行間から怒りや悔しさがにじみ出る。金権体質を支えた一方の当事者たちは、今も広島で生き残っているからだ。
私は21年4月、河井案里の当選無効によって行なわれた再選挙を現地で取材した。県庁前には選挙管理委員会が作成した旗が何本も立っていた。大書されたコピーは「だまっとれん。」。買収事件が起きなければ、10億円もかけて再選挙をする必要はなかったはずだ。
それでも再選挙の投票率は33・61%にとどまった。大規模買収が行なわれた選挙からは11・06ポイントのマイナス。買収がなければ投票率は上がらないのか。
「あんな事件が起きて、広島が全国的に注目された。恥ずかしい」
有権者の一人は私にそう言った。しかし、その後に続く言葉に耳を疑った。
「じゃけぇ、今回は選挙に行かん!」
一部の者だけが選挙に関わっている限り、金権政治はなくならない。まずは本書を読んで怒り、選挙に参加してほしい。
畠山理仁
はたけやま・みちよし●フリーランスライター