[本を読む]
競走馬に限りない愛と夢を
抱く人たちに
サラブレッドは美しい。調教された一流の馬体は神々しささえある。だがサラブレッドの末路は哀れでもある。生まれてくる仔馬のうちレースに出られるのはごく一部。出られても一生を
直木賞受賞作『少年と犬』の次に馳星周が選んだテーマは競走馬。彼の出身地である北海道
主人公の
競走馬を扱う牧場は生産、育成などに分かれており、仔馬は人を乗せられるようになって初めて調教師の元で競走馬としてのトレーニングが始まる。地元で馬に携わる人すべての願いが中央競馬の重賞、なかでもGⅠでの優勝だ。それはイコール
この地でいま注目されているのは栗木牧場生産の牡馬「エゴンウレア」。超一級の血統と素質を持つと誰もが太鼓判を押すこの馬は、GⅠや重賞でも2着や3着には
かつて中央競馬のリーディングジョッキーとなった亮介はその重圧に潰れ、覚せい剤で逮捕された。出所後、敬の元に現れたが借金取りに追い回されていた。その亮介を、敬は育成牧場・吉村ステーブルでのエゴンウレアの乗り役に推薦した。期待は裏切られず、誰をもバカにしていたエゴンウレアは亮介だけに従順となり、本来の力を発揮するようになっていく。
そしてGⅠを勝つ最後のチャンス、関係者が
オグリキャップ、トウカイテイオー、ディープインパクトと名馬の記憶は尽きない。人馬一体の「人」とは、その馬に関わり愛してきた人すべてだと気付く。競走馬に限りない愛と夢を抱く人たちにこの小説を捧げたい。
東えりか
あづま・えりか●書評家、書評サイト「HONZ」副代表