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藤井達夫『代表制民主主義はなぜ失敗したのか』を
吉川浩満が読む
「代表制度のイノヴェーション」

[本を読む]

代表制度のイノヴェーション

 格差、分断、排外主義、ポピュリズム……民主主義の危機を語る言葉をよく聞くようになった。ただでさえ危機が語られがちな政治体制であるのに、とくにここ数年の崩壊感覚はすさまじい。
 こうした状況に対応して、民主主義の再生を唱える本が何冊も書かれている。本書もそうした「民主主義再生本」の一冊であるが、あまたある類書に加えて、さらに本書を読む必要はあるのだろうか? 私は十分にあると感じた。以下に理由を述べよう。
 まず、本書が民主主義の危機をめぐるコロナ禍以降の新たな局面に完全対応している点。新たな局面とは、いち早い感染症対策と経済成長を両立させた中国型の権威主義的な統治モデルが民主主義のオルタナティヴとして存在感を強めている状況である。全体主義との戦いに勝利した民主主義だが、こんどは中国型権威主義からの挑戦を受けている。もはやこの観点を抜きにして民主主義の再生は考えられまい。
 次に、民主主義体制のグローバルスタンダードたる代表制民主主義――選挙と政党を基盤にした代表制度の下での民主主義――の危機について、理論と歴史の両面から極めて明快な診断を下してくれる点。著者は代表制度と民主主義とはそもそも無関係であったことを指摘したうえで、民主主義の危機の原因が代表制度の機能不全にあると分析する。ポスト工業化による社会構造の変化の結果、もはや旧来の代表制度は適切に機能しない。それを潔く認め、代表制度のイノヴェーションを唱える姿勢が頼もしい。
 最後に、理念と実装の両面から鍛えられた信頼性の高い処方箋――イノヴェーション事例――を提示してくれる点。著者が挙げるのは、熟議世論調査、市民集会、参加型予算という三つの事例である。どれも民主主義の基本である市民の参加と責任の感覚をエンパワーする仕掛けが巧妙に組み込まれており、現実社会での効果も実証済みである。
 民主主義の未来に関して、久しぶりに前向きになれた気がする。快著。

吉川浩満

よしかわ・ひろみつ●文筆家、編集者

『代表制民主主義はなぜ失敗したのか』

藤井達夫 著

発売中・集英社新書

定価 946円(税込)

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