[本を読む]
「悪夢」という罵りはブーメラン
となって安倍政権に突き刺さる
なにかにつけて「国民の命と財産を守るのが政治の使命」と繰り返し、危機への対応能力をことさらに強調したのが安倍元首相の特質だった。と同時にかつての民主党政権には憎悪を露あらわにした。「悪夢」とまで
前者については、そのメッキは
一方で後者は、その言説が多くの人びとに刷りこまれたままなのではないか。考えてみれば安倍政権が長期の「一強」体制を維持したのも、戦後初の本格的政権交代を成し遂げながら「失敗」と総括された民主党の
つまり、安倍政権が高く
政治記者に限った話ではないが、メディアは常に新しい情報を求めて前へ前へとつんのめり、過去を振り返って現在を照射するのがあまり得意ではない。しかし、危機に向き合った両政権を冷静に見つめ直したら何が見えるか。誰かがやらねばならないのに、誰もやらなかった大切な仕事を著者は試みた。
特に本書が指摘する「説明」と「責任」というキーワードは重要である。この点では、「悪夢」という罵りはむしろブーメランとなって元首相に深々と突き刺さる。眼前の総選挙に向けて必読の一冊だろう。
青木理
あおき・おさむ● ジャーナリスト