[本を読む]
人生のほろ苦さを
色とりどりの紙に包んで
深緑野分は悔恨を描く作家だ。
苦味を伴う感情が読後に残る。しかしその後味には、ほのかな甘ささえ感じるのである。
最新作『カミサマはそういない』は、七篇を収めた深緑初のノンシリーズ短篇集である。巻頭の「伊藤が消えた」は、将来に希望を見出すことができずにいる若者たちの姿を描いた小説で、家賃を分担していた家から引っ越した青年が行方不明になることから話が始まる。退廃的な空気が張り詰めたものへと変化していく展開が読みどころで、描写によって細部の質感を際立たせる技巧が功を奏している。
どことなくアジア風でありながら完全に無国籍な舞台の物語、「
日本推理作家協会の二〇一九年刊アンソロジーに収録された「見張り塔」も同じ構造で、崇高な任務に就いていると信じて疑わなかった主人公は、あるとき自分がしてきたことの意味を問い直さなければならなくなる。彼らの置かれた状況は、正しさの根拠がどこにも見つけられない現代の
杉江松恋
すぎえ・まつこい●書評家、ライター