[本を読む]
罪と罰、そしてその先にある祈り
「許されるように生きろ!」
これは、数年前に放映されたあるテレビドラマに出てきた言葉だ。取り返しのつかない結果を招いてしまった自分を責め、命を絶とうとしていた高校生男子は、その一言に泣き崩れる。
その言葉はずっと頭の中に残った。背負いきれないものを背負ってしまい、せめて自らの命を差し出すことが償いになるのなら、とまで思い詰めている人に、「(自分が犯した罪の被害者となった相手に)許されるように生きろ」という言葉は最適解だと思ったからだ。
同時に、(文字の)物語の中で出会いたかった言葉だ、とも思った。以来、この言葉と同じ地平にある物語を読みたい、と願っていたのだが、それを叶えてくれたのが本書だ。 主人公は、大学の心理学研究室に籍を置く
唯子が心を寄り添わせるのは、犯罪被害者の遺族だが、同時に加害者家族にも焦点が合わせられていて、それは唯子が加害者家族でもあるからだ。彼女の父親は、殺人の罪を犯し服役中だった。
この、被害者家族と加害者家族双方を描いたことに、本書の意義が、ある。なぜなら、人が犯した罪と罰に、同時にむきあうことになるからだ。殺人が許されない罪であることは間違いがないが、では、その罪に見合う罰とは何か。極刑なのか? 仇討ち的な復讐なのか?
被害者、加害者、双方の家族が心に抱えてしまう痛みと傷は、一朝一夕に癒えることなどない。けれどもいつか、癒えずとも、許し許される日が来ることもあるのではないか。来て欲しい。そんな作者の祈りにも似た声が聞こえる。
吉田伸子
よしだ・のぶこ●書評家