[本を読む]
生者と死者の思いをつなぐ物語
古来ゴーストストーリーは、非業の死を遂げた者たちに思いを馳せ、声なき声に耳を傾ける物語として機能してきた。赤川次郎の人気シリーズ約二年ぶりの新作『夜ごとの才女 怪異名所巡り11』もまた、生者と死者の思いをつなぐ“優しい”物語だ。
〈幽霊と話ができる〉霊感バスガイドの
藍が迷える魂に寄り添えるのは、彼女の大ファンの遠藤真由美が述べるとおり、〈死んだ人と会話することで、誰よりも生きることの価値を分って〉いるからだろう。藍の優しさは生きた人間にも向けられ、「簡潔な人生」では記者会見で大失敗してしまったエリート公務員に、「夜ごとの才女」では毎晩誰かに殺されかける悪夢に悩まされる女性タレントに、救いの手を差し伸べている。
もっともバスガイドである藍の一番の目的は、幽霊好きのツアー客を満足させることだ。不気味な犯罪者の護送を描いた「悪魔は二度微笑む」のような緊迫した作品であっても、真由美をはじめとするツアー客たちがにぎやかに登場し沈んだムードを吹き飛ばしてしまう。ミステリアスでありながら明るくユーモラス。その絶妙なバランス感覚こそ本シリーズの人気の理由だろう。
最終話「命ある限り」では入院した藍のもとに不気味な影が迫る。果たして彼女はこのままバスガイドを続けられるのか。シリーズ開始からまもなく二十年、ますます目が離せない〈怪異名所巡り〉。早くも次巻が待ち遠しい。
朝宮運河
あさみや・うんが●書評家