少女にわいせつ画像を強要し、ユーチューバーが逮捕された事件はまだ記憶に新しい。被害者が告発の場として選択したのは、別の人気ユーチューバーの生配信だった。同時接続数が十万人を超える中、面識のない配信者に暴露する心情はいかなるものか――
薬丸岳氏の新刊『ブレイクニュース』は、謎のジャーナリスト野依美鈴が「真実を報道する」をモットーに展開するユーチューブチャンネルが舞台だ。特ダネをおさえた美鈴が依頼者を含む関係者のもとへ凸り(突撃すること)、状況次第では相手のプライバシーを盛大に晒した上で敢行する取材動画が売りとなっている。虐待、ひきこもり、冤罪、パパ活、ヘイトスピーチ……扱う題材は種々様々。現代に巣食う闇を暴く刺激的な配信が、視聴者の下卑た好奇心を摑んで離さない。動画をアップするたびに再生数はぐんぐん増え、ついには二千万回以上を叩き出す。同業の私としてはまったく羨ましい限りである。
一方で、週刊誌でも御免蒙るような、ソースに乏しいケースを扱い、美鈴自身も結末を予測できない状態で進行する姿は危なっかしいこと極まりない。故に炎上も日常茶飯事だ。彼女はなぜここまでして配信を続けるのだろうか。金のため? 正義のため? はたまた――
動画が投稿されるたび、各事件の真相へ近づいていくストーリー。はじめは野次馬根性でゴシップを覗きにきただけの読者は、ミステリー小説としての顔を意識し始めることになる。
私は、理由や結果の如何に拘らず、自身の目的のために人々を扇動し、時に欺き、とことん利用する美鈴のやり方には否定的だ。ユーチューブが俗っぽいものの代表として語られ続けることにも口惜しさが残る。それでも、先のわいせつ事件の告発生配信は、親にも警察にも相談できない少女の駆け込み寺的な存在であったことを認めざるを得ない。美鈴もきっとそんな存在だったのだ。と同時に、少女の立場でもあったのだ。読後に二人の姿を重ねていた。