[書評]
間室道子
書ける人
俳優・松井玲奈さんの作家デビュー作。この人は「書ける人」だと直感した。無から有をなんとかひねり出すのではなく、すでにいくつもの有が体に刺さっており、それを一つ、また一つと抜くことで、物語にできる人。
不穏さがベースにある男女の官能物語からスプラッタ・ホラー(!)まで収録作はバラエティに富んでいるが、松井さんと同じ年ごろの女性を描いた「ハンドメイド」「いとうちゃん」「拭っても、拭っても」がとくにいいと思った。
主人公たちは希望どおりの彼氏や夢を手に入れたのに、喜びきれない事態に苦しんでいる。そして得たものを嫌いにならないようにすることが「愛」だと思っている。「私が望んだのだから」と言い聞かせて、ロックのかかった台車を無理矢理押すように人生を進めようとするのだ。ふつうは逃げ出すか戦うかになるけど、これら三作を含め『カモフラージュ』には登場人物たちの思わぬ自己解放やことの始末のつけ方があり、新しさを感じた。
そして今回文庫化に当たり書き下ろされた「オレンジの片割れ」。主人公・奈津子は小学生の時にすごいものを得た。恋する男女の「この人は運命の人?」という不安にずばり正解を出してくれる奇跡のアイテムだ。でもそれは大人になった彼女を幸せにせず追い詰めて……という松井さんらしい展開が読みどころ。
「(中略)あったら素敵だけどさ、自分で選んで生きたいから。いる場所も、会う人も、全部」という奈津子の親友・洋子の言葉に、書き手自身のこの先を見つめるまなざしと
ちなみに二作目の小説『
間室道子
まむろ・みちこ●代官山 蔦屋書店 文学コンシェルジュ