[書評]
大矢博子
少年たちの「探し物」を描く
ほろ苦い青春ミステリ
米澤穂信の高校生ものには、共通する魅力がある。ユーモラスで気の利いた、
その一方、
高校生ならではの楽しい青春と、高校生だからこそぶつかる壁。その陽と陰の狭間を見せるのが米澤穂信の青春ミステリだ。そして『本と鍵の季節』には、その
主人公の堀川次郎は高校二年の図書委員。相棒は同じく図書委員で皮肉屋の松倉詩門。利用者の少ない図書室で暇を持て余すふたりのもとに舞い込む厄介事や頼まれ事が、連作短編の形で綴られる。
この謎解きが実に多彩なのだ。開かずの金庫に挑戦する「913」は暗号ミステリ。美容師の一言から思わぬ事実が導き出される「ロックオンロッカー」。テスト問題を盗んだ疑いをかけられた生徒を助ける「金曜に彼は何をしたのか」はアリバイもの。自殺した先輩が最後に読んだ本を知りたいという「ない本」は、証言から真相に到達する安楽椅子探偵。
最後の二話はここでは内緒にしておくが、一冊でこれだけバラエティに富んだ謎解きが味わえるのは贅沢この上ない。
だが、時折ちらりと苦味が覗く。それが最後の二話に
収録されている謎解きは趣向こそ違えど、第二話以外はすべて何かを「探す」話である。それは高校生という、何かを探して
若い世代はもちろん、その日々を通ってきた大人の読者にもぜひ読んでいただきたい、ほろ苦い青春ミステリである。
大矢博子
おおや・ひろこ●書評家