[本を読む]
激動の時代を、唐手家は真っすぐに進む
警察小説の今野敏。こう書くたびに、心の中がザワつく。たしかに作者は、多数の警察小説のシリーズを抱える人気作家である。だが、それだけではないのだ。もっと幅広い題材と世界を持っているのである。
その中でも特に心血を注いでいるのが武道小説だ。理由がある。作者は作家であると同時に、空手道今野塾を主宰する武道家でもあるのだ。集英社で刊行している、実在の武道家を主人公にした一連の作品に、そうした武道家としての知見や想いが託されている。
しかも、『惣角流浪』『山嵐』に続く、三冊目の『義珍の拳』から、『
主人公の
本書の主な内容は、松村の手の修行と戦いである。理屈家でせっかちな彼は、強敵との戦いの最中でも、考え、気づき、試す。地位を獲得し、
さらに
細谷正充
ほそや・まさみつ●文芸評論家