[本を読む]
死が際立たせる生の輝き
「みんないつか死ぬ」なんて、とっくに知っている。でももし自分の死ぬ日がわかったら、次の日から人はどう行動するのだろうか。
クロエ・ベンジャミン著『不滅の子どもたち』(鈴木潤訳)は、興味本位で占い師の女を訪れ、死ぬ日を予言されてしまった四人のきょうだいが、“その日”に取り憑かれながらそれぞれの人生を生きる物語である。舞台は、四人が子どもだった一九六九年から、二〇一〇年でひとまずのピリオドが打たれるまでのアメリカ――移ろいゆくニューヨークやサンフランシスコの風景や文化、歴史的事実が、豊かな筆致によって立ち上ってくる。
自分の死は世界滅亡の日と等しい。ディザスタームービーのように泣きわめいたり怯えて動けなくなったりするかもしれない。けれどもこの作品は違う。予告された死への恐怖と生への渇望をいたずらに単純化せず、人間は明日をどう生きるのか、真摯に丹念に描く。
短命を予言された人物は痛ましいほどの衝動と熱情で外の世界へ歩き出す。ある人物は
読者は、いつか来る“その日”と重い鎖で繫がれた四人の人生を追いかけ、生き残った苦しみに
ところで、私自身はもしあと数年の命だとわかったら、きっとすごく焦って、ひたすら小説を書くだろうと思う。頭の中にある物語たちを外へ生み出せないこと、それが何よりの恐怖だから。
深緑野分
ふかみどり・のわき● 作家