[本を読む]
もう一度歩きだすために
高校で国語を教えていると、よく生徒たちから「お薦めの本を教えてください」と言われる。「どんな本が読みたいの?」と聞くと、十六歳たちは「元気がもらえる本」「高校生とか、若い人が出てくる本」と答える。
自信を持ってサリンジャーの『キャッチャー・イン・ザ・ライ』を薦めるが、「主人公の感性の鋭さについていけない」という子も少なくない。
「もうちょっと高校生の気持ちに寄り添ってくれる本って、ありませんか?」
そう言ってくる生徒たちに、今後はぜひ、この『放課後ひとり同盟』を薦めたい。
祖母との関係に悩む女子高生、自分は女であるという気持ちを理解してもらえず苦しむ男子、小学生のときの憧れの人が忘れられない大学生……。
ここに出てくる若者たちはみんな、かなり重いものを抱えて生きている。それを、登場人物の一人は「すごく暗くて、重くて、ぐるぐるうずをまく、ねばーっとしたもの」と言う。読者は「自分にも、同じような苦しみがあるなぁ」と共感するだろう。
だが、小嶋陽太郎は、共感だけでは終わらせない。悩む若者たちは、ちょっと変わった存在に会う。地上に降りかかる不幸を蹴り上げる男、人の心を読みとる犬、カッパに似すぎている優しい少年……。出会いによって悩みが劇的に解決することはないが、ちょっと変わった存在は、笑いを誘い、問題の深刻さを認め、ひととき悩みを共有してくれる。
若き小説家は、「めでたしめでたし」というラストに導いてはくれない。その代わり「みんな一緒に悩もう。悩んでいる君って、けっこういいよ」と教えてくれる。きっと多くの読者が「悩みがあっていいんだ」「悩んでいる今が大切なんだ」と思うだろう。
私はこの本を読んで、十回声をあげて笑い、三回泣きそうになり、四回しみじみ感動した。
みなさんも、堂々と悩みを抱く同盟に加わりませんか?
千葉聡
ちば・さとし● 高校教師、歌人