[本を読む]
「らしく、ぶらず」日々を送ること
「らしく、ぶらず」。
高校時代の恩師が教えてくれた言葉だ。教師なら「教師らしく、教師ぶらず」。医師なら「医師らしく、医師ぶらず」。らしくも、ぶらずも、どちらも自分を律することに通じるのだけど、群むれさんのエッセイを読むと、私はいつもこの言葉を思い出す。本書に詰まっているのは、群さん流の「らしく、ぶらず」生きるヒントである。
冒頭の「災い転じて福となす」で描かれるのは、着物本のための撮影がある日に寝坊してしまったものの、14年ぶりにプロの方にヘアメイクしてもらう、という機会を生かして、自分のお化粧の知識をアップデートする群さんの姿だ。元々の唇の色が赤いことが悩みだった群さんが、メイクに使われたリップペンシルの色を気に入って、ブランド名を尋ねる。後日、そのブランドに買い物に行き、口紅を買い、他にも勧めてもらったチークも購入する、というものなのだけど、いいな、と思ったものは早速取り入れてみる、というその姿勢がいい。
群さん流の環境に配慮した暮らしぶり(プラスチックゴミをできるだけ出さない)がうかがえたり、着物に対する知識が深まったり(ストレッチ素材の足袋がある!)、物を増やさない工夫(洋服は1枚買ったら2枚処分する)をしているのだけど、それでも現状は6枚過剰であること、等々、書かれていることが、読み手である私たちの暮らしに直結していることもポイント高し。
個人的には、一緒に暮らして20年以上になる愛猫とのくだりがたまらない。女王様気質の猫に尽くす群さんの姿(群さんは自身を乳母、と)は、世の愛猫家に共通するものだろう。本書のあとがきには、その最愛の愛猫との別れが、お母さまとの別れとともに書かれているのだが、その筆致の静かさこそが、群さんなのだな、と思う。
「人間以外、何でもかわいい」から最後の「人生二度目のかき揚げ作り」の6編はwithコロナの日々で書かれたものだが、あとがきの「小さな福を見つけられますように」という一文が、胸に
吉田伸子
よしだ・のぶこ●書評家