[本を読む]
ミスとチャレンジの関係に迫る、
唯一無二のゴルフ小説
カウンター攻撃重視の現代サッカーは、自軍のミスを排し相手のミスを待つことが勝利の鉄則だ。では、個人競技の球技である、ゴルフは? エンタメ小説界の新鋭・半田畔が初挑戦したスポーツ小説『ひまりの一打』に、答えが書き込まれている。〈ゴルフとは本来、ミスをするスポーツだ〉。
主人公は二〇歳のプロゴルファー、中原ひまり。プロ一年目は上々の成績をあげたが、二年目の今年は散々だ。それもこれも、ひまりの「迷ったときはわくわくするほうのショットを選ぶ」というモットーと、調子の「波」があり過ぎる点にあった。スポンサー企業の会長は新しいキャディとして、事故で一線から身を引いたプロゴルファー・三浦真人を推薦し、次の大会で優勝しなければ、スポンサー契約を打ち切る、と言い渡す。
一〇年ぶりの再会だった三浦は、実はひまりがゴルフを始めるきっかけを作った人物だ。しかし、今は酒浸りの生活を送り、過去の自分を否定する言動ばかり繰り返す。凸凹コンビはいかにして信頼関係を築き、ひまりのプレースタイルを改造するに至るのか。やがて同世代のライバルが現れ、最終決戦に突入し――。
ゴルフとはミスをするスポーツ。一打一打にその瞬間のメンタルが大きく作用するし、ショットに影響を及ぼす原因がコース上に無数に存在する。重要なことは、メンタルを整え、コースや自然環境を理解して、ミスを減らすことだ。とはいえ、それは重々知っているにもかかわらず、あえてリスクを冒すことで大きなリターンを得ようとし、その結果ミスしてしまうこともある。その時、ミスは別の言葉で呼ばれる。チャレンジだ。
最終決戦最終日は、ミスとチャレンジの関係性を土台に据えた、唯一無二のエピソードが展開される。ゴルフを題材にした物語は漫画で数多く描かれているが……こんなにも新鮮なエピソードがまだあったなんて! この小説の唯一のミスは、全二八四ページで終わってしまっていることだ。続編、熱望します。
吉田大助
よしだ・だいすけ●ライター