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『紅蓮の雪』遠田潤子 を
北上次郎が読む
「真実が明らかになる圧巻のラスト」

[本を読む]

真実が明らかになるラストが圧巻

『雪の鉄樹』を思い出す。あの息苦しい物語を思い出す。何なんだこれは、とびっくりして、あわてて遠田潤子の作品を遡って読みふけった日々を思い出す。
 本書『紅蓮の雪』も、息苦しい物語だ。たとえば、若座長の慈丹じたんに「ちょっと二人で踊ってみようか」と言われたとき、「不安だったが、断ることは出来ない」と牧原伊吹まきはらいぶきは述懐するが、なぜ不安に思うのか。実際に慈丹が舞台に現れ、手を取られたとき、伊吹は我慢が出来ずに慈丹の手を振りほどいて逃げだしてしまう。舞台を下りても吐き気はおさまらない。
「俺は子供の頃から、人に触れるのが怖いんです。触れるのも触れられるのも、怖くてたまらないんです。人が近くに寄ってくるのも苦手です。息苦しくなるんです」
 のちに伊吹はそう語るが、なぜなのかは語られない。幼いころに父親の体に触れようとしたら「汚い、触るな」と怒られた回想が挿入され、自分は汚いと思い込んで育ってきたという事情は少しずつ語られていくが、問題はなぜ父親がそんなことを言ったのかということだ。その肝心かなめのことはずっと語られないまま物語が進んでいくので、不安と息苦しさが高まっていく。
 双子の姉朱里しゆりの死から始まる物語である。なぜ朱里は二十歳の誕生日に自死を選んだのか。その理由を知りたくて、遺品を整理しているときに、伊吹は大衆演劇の雑誌と、大阪の劇場の入場券の半券を発見する。その日に公演を行っていた鉢木座はちのきざを訪ね、そのまま劇団員になって伊吹の舞台生活が始まっていくので、これは大衆演劇小説だ。その独特の世界の裏側が克明に描かれるのでそれだけでも興味深いが、もちろんそれだけではない。両親に邪険にされ、ずっと一緒にいようねと約束していた双子の姉が、なぜ自分を置いて死んでしまったのか。いちばん知りたいのはそれだ。その真実が明らかになるラストが圧巻だ。

北上次郎

きたがみ・じろう●文芸評論家

『紅蓮の雪』

遠田潤子 著

発売中・単行本

本体1,800円+税

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