青春と読書 本の数だけ、人生がある。 ─集英社の読書情報誌青春と読書 本の数だけ、人生がある。 ─集英社の読書情報誌

定期購読のお申し込みは こちら
年間12冊1,000円(税・送料込み)Webで簡単申し込み

ご希望の方に見本誌を1冊お届けします
※最新刊の見本は在庫がなくなり次第終了となります。ご了承ください。

本を読む/本文を読む

永江朗が読む、堂場瞬一『共謀捜査』
組織の持つ不条理

[本を読む]

組織の持つ不条理

『検証捜査』に始まる堂場瞬一の「捜査」シリーズの最終編、『共謀捜査』が出た。もっとも、作者は一連の作品群を「シリーズ」ではなく『検証捜査』のスピンオフだと『共謀捜査』のあとがきで述べているのだけれども。
『検証捜査』は異色の警察小説だった。なにしろ警察庁が全国から刑事を集めてチームを組織し、ひそかに神奈川県警を捜査するというのである。集まったのは警視庁の神谷かみや、埼玉県警の桜内さくらうち、福岡県警の皆川みながわ、大阪府警の島村しまむら、北海道警の保井やすい。チーフは警察庁のキャリア理事官、永井ながい。保井だけが女性で、下の名前のりんと表記される。
 スピンオフ連作は1作ずつ完結していて、主人公も舞台も、そして題材となる犯罪の性質も異なる。『検証捜査』は神谷の視点で描かれたが、第2作『複合捜査』以降、5人の刑事たちが、主人公あるいは脇役として登場する。彼らは警視庁・道府県警の管轄を超えて協力する。単独で読んでも充分楽しめるが、品、とりわけ『検証捜査』を読んでおく他の作と面白さが何倍にも膨らむ。
 前作となる第5作『凍結捜査』では、凜が冬の函館・大沼で起きた殺人事件に挑んだ。小説の最後で、警察庁のキャリアである永井が、自分はICPO(国際刑事警察機構)で新しいタスクフォースを立ち上げるから手伝わないか、と凜を誘う。そして『共謀捜査』はICPO本部のあるフランスが舞台。永井が何者かによって誘拐されるところから始まる。
 事件はフランス国内に留まらない。日本国内でも事件が起き、永井誘拐との接点が暗示される。さらにはあの『検証捜査』の闇までが掘り返される。連作の最後にふさわしく、凜や神谷をはじめ桜内や皆川、そして定年退職した島村までが活躍する。まさにオールスター戦で、連作に親しんできたファンにはたまらない。
 いずれの作品でも印象的なのは組織というものが持つ不条理。事件が解決しても苦さが残る。人間という存在の宿痾しゅくあなのか。

永江朗

ながえ・あきら●書評家

『共謀捜査』

堂場瞬一 著

発売中・集英社文庫

本体960円+税

購入する

  • twitter
  • Facebook
  • LINE

TOPページへ戻る