[本を読む]
キャリア50年、ベテラン料理家の
ありのままの暮らし
コロナで家にいることが続いて料理が苦痛! 悲鳴に近い声を、ネットなどで見聞きする。作る習慣のある私も、日によってはやる気が出ない。鍋を火にかけるのすら
この本を手にとったのも、全体に意欲が低下中のとき。写真ページをぱらぱらめくり「さすが料理家。朝から野菜たっぷりのお味噌汁を飲んでいるのね」と眺めていたが、脇に書いてある作り方に目を疑った。こんな簡単にできるの?!
七十八歳の現役料理家がキャリアを振り返りつつ、ありのままの日常と伝えたいことを綴る本だ。三人の子どもは独立、夫は先立ち、ひとり暮らしの後期高齢者となった今も、自宅に備えたキッチンスタジオを拠点に活動中。
「もともとスーパーウーマンなのね」と結論しては早とちりになる。キャリアの途中には、原因不明の不調に苦しみ、
著者が力を入れているのは子どもの料理教室と、自立したシニアでいるための料理教室。年をとると買い物が面倒、作るのが面倒、食べるのすら面倒となりかねない。そんなときには、切った材料をマグカップに入れて電子レンジで加熱する、マグカップ料理を。ひとり分をパック冷凍した材料を電子レンジで加熱する料理もある。「作り方やかけた時間は、本質的な問題ではありません」。料理の道五十年、栄養学も修めた著者に言われれば、ぐっと気が楽になる。もちろんカラー写真のレシピ付き。
暮らし方にも憧れる。服を三十着しか持たない(クローゼットも写真で公開)のに、なんておしゃれ。「朝は定刻に起きる、誰に見られなくとも身づくろいをする、一日三度の食事をとる」。私も将来まねしたい。いや、仕事がリモートなのをいいことに、崩れかけている今からでも。
楽しく元気になれる一冊。シニアにはまだ間のある人にもぜひ読んでほしい。
岸本葉子
きしもと・ようこ● エッセイスト