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Netflix「クィア・アイ」の美容担当、ジョナサン・ヴァン・ネス著
『どんなわたしも愛してる』を
松岡宗嗣が読む

[本を読む]

自分“こそ”が自分を受け入れる大切さ

 過去の自分にがんじがらめになって、前に進めなくなることがある。他人と比較し、自分自身のコンプレックスから身動きが取れなくなる。
「ファブ5」と呼ばれる5人のゲイが、依頼者の外見と心を“変身”させるNetflixの人気番組『クィア・アイ』。本書の著者であるジョナサン・ヴァン・ネスは、ファブ5の美容担当として、依頼者が過去やコンプレックスと向き合う手助けをし、「自分らしさ」を引き出す。
 昨年「ジェンダーノンコンフォーミング(既存の性の規範にあてはまらない)」であることを公表。長髪とひげ、そしてハイヒールを履きこなし、まさに「ありのままの自分を愛する」実践者だ。
 しかし、そんなジョナサンは本書で、本当の自分を知ってもファンでいてくれるのか、と自身の過去を公表することへの不安を綴る。
「ありのままの自分」「自分らしさ」。多様性をうたう昨今では頻繁に耳にするようになった言葉だ。ただ、社会の差別や偏見などから実践することは容易たやすいこととは言えない。
 ジョナサン自身も、まさに過去の自分を消し去りたい記憶として箱に閉じ込めていた一人だった。いじめ、摂食障害、性暴力被害、セックスや薬物への依存、そしてHIV陽性者であることを本書で明らかにする。
 メディアに映るのは、フィギュアスケートをこよなく愛し、常にポジティブで依頼者を華麗に変身させる姿。しかし、それは本人の一部でしかなく、ジョナサン自身も『クィア・アイ』の依頼者や視聴者と同じように悩み、過去の自分にがんじがらめになっていた。
 なぜ過去を公にしようと思ったのか。その答えを知ると「ありのままの自分」という耳触りは良いけれど、輪郭を摑めずどこか距離を感じてしまうこの言葉が、より形を持って身近に感じられてくる。
「わたしはどん底を見た。さあ、これからは巻き返しのターン」。本書から、他の誰でもなく、自分“こそ”が自分を受け入れることの大切さを改めて学ぶ。

松岡宗嗣

まつおか・そうし●ライター、一般社団法人fair代表理事

『どんなわたしも愛してる』

ジョナサン・ヴァン・ネス 著/安達眞弓 訳

9月4日発売・単行本

本体2,400円+税

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