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吉田大助が読む、渡辺優『悪い姉』
異形にして真っ当な家族小説

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異形にして真っ当な
二〇二〇年の家族小説

 渡辺優の第四作となる長編『悪い姉』は、これぞ渡辺優という感じで、物語が開幕した瞬間、異形の欲望のスイッチが入る。〈私は平穏な人生を手に入れるために姉を殺す〉。
 高校二年生の倉石麻友まゆは、友人との会話やモノローグから、ほんのりファンキーな感覚を持っていることがうかがい知れる人物だ。基本はポジティブ方向に感情の傾きが激しく、ネガティブに針が振れる時も、それを飲み込んでおける優しさがある。でも、同じ学校の同じ学年にいる、年子の姉・りんに対する気持ちは質が違う。彼女は、「悪い姉」だった。例えば、「私」が密かに片思い中のヨシくんと一緒にいるところを見て、〈『今のブサイクだれ? 笑』〉とラインで陰口を叩き込んでくる。そんなエピソードが可愛らしく思えるほど、過去にしでかされた仕打ちは酷い。酷すぎる。だから、「殺す」。
 悲劇は一般的に、運命悲劇と性格悲劇に大別される。前者は個人の思惑おもわくを超えた不条理な運命から生じる悲劇であり、後者は特定の人物の性格から発生する悲劇のことだ。『悪い姉』は勿論、後者に当たる。しかし……生まれ持った家族とは、運命以外の何物でもないのではないか? 学園生活や家庭風景の中で、主人公に襲いかかる二重化した悲劇。幾度となく挿入されるのは、夢の中で姉を殺すシーンだ。それが現実に起こる瞬間はいつ、どんな時か。読み手の期待に、作者はある面では応え、ある面で裏切る。
 新型コロナウイルスの感染拡大により、世界中の人々が外出自粛期間を過ごした。同居家族以外とは接触できない、というルールに基づく生活がもたらしたものの一つが、家族という概念の復権だ。家族は個人の自由を奪うが、家族こそが個人を守る。そこがしき場所だと感じていたとしても……そうであるならば尚更、家族のあり方、家族の中でのい方、家族との関係性について、スルーせず向き合わねばならないのではないか。自分が、自分のままでいられるためにも。
 二〇二〇年の「今」を感じる、異形にして真っ当な家族小説。震えました。

吉田大助

よしだ・だいすけ● ライター

『悪い姉』

渡辺優 著

8月26日発売・単行本

本体1,600円+税

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