[インタビュー]
過酷な世界だからこそ輝く皇子たちの執念、絢爛たる文化――
中原の覇者・
聞き手・構成=砂田明子
◆◆◆ 勝者の条件とは?
─ 煋王朝独自の皇位継承制度「九天逐鹿」は、参加する皇子たちにとっては極めて非情な制度である一方で、国全体から見ると、最も知略に富んだ人物が皇帝になるという、理に適った制度でもあります。複雑な構想やプロットをどのように考えられていったのでしょうか。
きっかけは晋王朝(西晋)の内乱、八王の乱です。有力な八人の王が玉座をめぐって骨肉の争いをくりひろげ、その結果、晋王朝が滅んでしまったという歴史的事件に着想を得ました。どうせ皇位争いをするなら庶民の生活を脅かさないかたちでやってほしいものだなと思い、考え出したのが軍兵を使わずに宮廷内だけで完結し、犠牲を最小限にとどめる玉座争奪戦「九天逐鹿」です。龍生八子とその親族だけでなく、つなぎの天子として使われ、殺される女帝一族にとっても非情な制度ですが、庶民には恩恵のほうが多いです。ただ、九天逐鹿を勝ち抜いた皇帝がみんな名君になるかというとそういうわけではなく、なかには九天逐鹿を勝ち抜くことが最終目標になってしまい、即位後に燃え尽きてしまう皇帝もいます。ほかにもさまざまな問題を内包しているので、作中で(八皇子の一人である)
─ 「九天逐鹿」は裏切り、買収、替え玉……と、何でもありで、だれが勝つのか、最後まで予想がつきません。
私の場合、どの作品でもプロットづくりは担当さんとの共同作業です。だれをどこでどのように失点させるか、落伍させるか、お互いに意見を出し合いながら、かなり細かいところまで突き詰めていきました。ふだんから担当さんのアイデアに刺激を受けることが多いのですが、特に相談してよかったなと思っているのが序幕の部分です。私はまったく別のシーンを推していたのですが、担当さんは九天逐鹿終了直前のシーンを推していらっしゃったため、若干不満に思いつつも(笑)そのとおりにしました。結果は大正解で、いまではお気に入りのシーンのひとつです。苦労したのは九天逐鹿にかかわるアイテムの名前決めですね。人物名もそうですが、ひとつひとつ意味を持たせなければならないので難渋しました。とりわけ
─ 八人の皇子はそれぞれ個性的です。印象に残るキャラクターやエピソードがあれば教えてください。
八人の皇子は、まず最後まで勝ち残る人を決め、あとの七人にはそれぞれ落伍する理由を持たせてキャラづくりをしました。八人の中では
─ わが子や母、妻など、愛する者の存在は、皇子たちの戦うモチベーションになると同時に、ウイークポイントにもなる……。ある種の勝負事に通ずるひとつの真理のようにも感じます。「勝者」に必要な要素や条件は何だと思われますか。
『老子』に「人に勝つ者は力有り、自ら勝つ者は強し」という言葉がありますが、恐怖や不安、油断、慢心など、自分の中から生じたものに打ち勝つことができる人こそ、本物の勝者なのだろうと思います。なので、大切なのはモチベーションより、つねに冷徹さを忘れないことでしょうか。なかなか自分が実践するのは難しいですが……。モチベーションは不安定なものなので、ふりまわされて疲弊したり、それにこだわりすぎて視野が狭くなったりする恐れがありますし、ある意味では危険な存在かもしれません。
◆◆◆ 悪逆無道の限りを尽くした宦官が好き
─ 「あとがき」に、
司馬遷は宦官になってまでも生きのび、『史記』を書きあげた大人物ですので尊敬しています。あと、私は宦官が好きなので、宦官というだけで好感度があがります。ちなみにいちばん好きな宦官は明代末に悪逆無道の限りを尽くした
─ 「後宮」シリーズも書かれているはるおかさんにとって、中華を舞台にした物語の魅力を教えてください。
中華の魅力はやはり苛酷な世界観ですね。罪の重さによっては本人だけでなく一族郎党も処刑されますし、たとえ高官でもひとたび転落すれば末路は悲惨です。宦官は心身を傷つけられたうえで使役され、