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競馬史にまつわる謎を追う
『ノン・サラブレット』島田明宏
書評:吉野仁

[本を読む]

競馬史にまつわる謎を追った興奮の物語

 ノン・サラブレッド。すなわち「サラブレッドではない」という意味だ。さして競馬に詳しくないわたしは、本書を読み、「サラ系(サラブレッド系種)」という競走馬の種類があることを初めて知った。
 明治時代、ミラという名の牝馬ひんばがオーストラリアから輸入された。ほぼサラブレッドに間違いないものの、血統書がなかったことで「サラ系」とされた。そのためミラとその子孫は、多くの好成績を残したにもかかわらず、さまざまな冷遇を受けることになる。だが、もし血統書が存在し、それが発見されたならば、日本競馬史がひっくり返る大事件だ。
 本作は、この血統書にかかわる現代の事件を軸としながら、並行して一九七〇年代に活躍したサラ系のある馬をめぐるドラマが語られていく。
 二〇二×年、「東都日報」の競馬担当記者・小林真吾に、ある日、奇妙な電話がかかってきた。ミラという馬の血統書がみつかったという内容で、その裏に「事件」が絡んでいることをにおわせる口ぶりだった。いったい誰が何の目的でタレコミの電話をかけてきたのか。小林は、その真意を確かめようと北海道へと向った。
 一方、一九七〇年代、廐務員きゆうむいんの大谷晴男は、ホーリーシャークというサラ系の馬の世話を担当することになった。やがて晴男は調教師をめざしつつ、馬の育成に励んでいく。
 次第に現代と過去の出来事がつながり、真相が見えてきたと思いきや、意外な展開に驚かされる本作は、競馬をよく知らない読者も十分に愉しめるだろう。というのも、北海道の牧場や馬事資料館、横浜にある馬の博物館などをめぐりながら血統書の謎を追う競馬史ミステリーの妙を味わえるだけでなく、ホーリーシャークの成長や活躍の過程にわくわくさせられるからだ。馬の素質や性格による調教の方法、レースにおける勝負のかけ方などがひとつひとつ具体的で臨場感にあふれており、読んでいるこちらまで興奮を覚え熱くなってしまう。この馬にかかわる人々のドラマが真に迫ってくる物語なのだ。

吉野 仁

よしの・じん● ミステリー評論家

『ノン・サラブレッド』

島田明宏 著

発売中・集英社文庫

本体740円+税

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