[本を読む]
競馬史にまつわる謎を追った興奮の物語
ノン・サラブレッド。すなわち「サラブレッドではない」という意味だ。さして競馬に詳しくないわたしは、本書を読み、「サラ系(サラブレッド系種)」という競走馬の種類があることを初めて知った。
明治時代、ミラという名の
本作は、この血統書にかかわる現代の事件を軸としながら、並行して一九七〇年代に活躍したサラ系のある馬をめぐるドラマが語られていく。
二〇二×年、「東都日報」の競馬担当記者・小林真吾に、ある日、奇妙な電話がかかってきた。ミラという馬の血統書がみつかったという内容で、その裏に「事件」が絡んでいることを
一方、一九七〇年代、
次第に現代と過去の出来事がつながり、真相が見えてきたと思いきや、意外な展開に驚かされる本作は、競馬をよく知らない読者も十分に愉しめるだろう。というのも、北海道の牧場や馬事資料館、横浜にある馬の博物館などをめぐりながら血統書の謎を追う競馬史ミステリーの妙を味わえるだけでなく、ホーリーシャークの成長や活躍の過程にわくわくさせられるからだ。馬の素質や性格による調教の方法、レースにおける勝負のかけ方などがひとつひとつ具体的で臨場感にあふれており、読んでいるこちらまで興奮を覚え熱くなってしまう。この馬にかかわる人々のドラマが真に迫ってくる物語なのだ。
吉野 仁
よしの・じん● ミステリー評論家